11月5日(土)、北海道札幌市・北ガスアリーナ札幌46で「第1回全国特別支援学校フットサル大会」が開催されました。
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北信越地区代表として本大会に出場した石川県立いしかわ特別支援学校 原崇史先生、飯島蓮くん、武田圭太くん、中嶋健太くんに、開会式後、お話をお伺いしました。
写真 左:飯島蓮くん(高2)、中央:武田圭太くん(高3)、右:中嶋健太くん(高3)
-普段の練習について教えてください。
中嶋健太くん)毎週火曜日と木曜日にサッカーの練習をしています。
飯島蓮くん)雨の日は体育館でフットサルの練習をしています。月に1回、社会人の先輩方と合同でサッカーの練習をしています。
-先輩方との合同練習の経緯を教えてください。
監督・原先生)FC TONというサッカーチームの中に、石川県内の特別支援学校の卒業生で構成されているFC アグラードという知的障害者のサッカーチームがあり、もともと石川県の特別支援学校の教員で今はFC TONというチームの代表を務めている方が石川県内のサッカーのレベルアップを目的に企画してくださって、実施いただいています。
-フットサルやってみてどうですか?
武田圭太くん)パスが通らなかったり、仲間を見ないで進んでしまったりします。上手くいかずに拗ねてしまう選手もいます(笑)
-そういうときはどう対処していますか?
武田圭太くん)先生に相談したり、自分たちで話したりして解決しています。
-サッカーやフットサルは楽しいですか?いつからやっていますか?
中嶋健太くん)めちゃくちゃ楽しいです。テレビでツエーゲン金沢の試合を見て、やってみようと思ったのがきっかけで、僕は小学校4年生のころからサッカーを始めました。サッカーは、金沢のデイサービスでやっていました。
武田圭太くん)僕は、保育園の時からサッカーをやっています。全国大会も経験しました。名古屋グランパスのフットサルにも参加して、ここでいろいろ教わりました。サッカーではディフェンダーをやっていたんですけど、ベンチのときはチームの為に飲料を作ったり、そういうこともしました。プレーしているときも、ベンチでサポートしているときも楽しいです。
飯島蓮くん)小学校1年生から始めました。ドリブルをしているときが一番楽しいです。得意なのはシュートだけど…(笑)
-武田圭太くんについて
中嶋健太くんと飯島蓮くん)攻めも守りもするし、キーパーもして、色んなポジションをしていてバランスがいい選手です。仲間に声かけたりもよくしています。
-この大会の意気込みを聞かせてください。
中嶋健太くん)優勝をしたいと思っています。声かけすることと周りをよく見ることを意識してプレーしたいです。みんなでパスをつないでシュートまでいけたらいいなと思います。
武田圭太くん)しっかり守って、いい声かけをして、タイミングがあれば攻めていきたいです。もし、ゴールキーパーに何かあれば僕が代わってチームの為に体を張りたいです。すねが割れてもがんばります!(笑)
飯島蓮くん)優勝はできなくてもいいので、目の前の一試合一試合をしっかり勝ちたいです。
-今後について教えてください。
中嶋健太くん)高校を卒業したら選手にはならないけど、サッカーの指導者になりたいです。僕がやっていて楽しかったので、その楽しさを教えたいです。
原先生)嬉しいですね…!(笑)
武田圭太くん)津波や地震、土砂崩れしても壊れない家や動ける車を作りたいです。
飯島蓮くん)まだ高校2年生なので決まってはいないけど、サッカー関係の仕事に就きたいと思っています。サッカーも続けたいし、教えることもしたいです。
写真 左:監督 原崇史先生、右:理事 寺田美穂子
-大会前日にお時間を取っていただき有難うございます。全国大会という目標に向かって取り組んできた子供達の様子や成長についてお話を伺わせてください。まず、子供達がスポーツに取り組むことによって得られているものは何だと思いますか?
就労を目指す彼らの体力づくりとして、部活動もその一役を担っています。またチームには様々な特性や性格の子がおりますが、チームメイトを見捨てることは決してせず全員で練習に取り組んできたことは相手のことを考えるコミュニケーション力だと思いますし、それは就労後にも必要な能力であり、スポーツを通して生きる力を養ってくれたらと思います。
そして、サッカー・フットサルを好きになってくれたこと。生徒達も言っていたように「スポーツやサッカーに関わりたい」という夢を持ってくれていることは、体育教員として、サッカー部の指導者としてやっていて良かったなと思います。スポーツ以外の夢だとしても、自分のなりたいものが定まっていく姿を嬉しく思います。
-私も、将来の夢を明確に語れることに大変感心しました。それがフットボールに関わることであると聞いて、彼らのなかで生きがいとして大きな割合を占めてくれているのだと感じられて嬉しいです。先程、就労のお話がでましたが、本大会の目的のひとつとして、スポーツの実践を通じて健康な体と精神的な強さを身に付けることにより就労支援に繋げることが挙げられています。(一財)日本ライオンズの小野寺副理事長もご自身の福祉法人で多くの雇用をしておられるなかで、体力をつけて今よりも働けるようになれば更なる自立に繋がると仰っていました。支援学校ではスポーツの機会や時間が、普通校よりも少ない傾向があるのでしょうか?
そうですね。私自身が大学院で様々な文献を調べた際にも、健常児に比べ知的障がい児は運動機会が少ないという英語の論文がありましたので、世界的に見ても少ない傾向にあるのだと思います。
-ではどのようにしたら、運動機会は増えていくと考えていますか?運動不足や健康寿命の延伸という視点で見ても、障がいの有無に関わらず社会全体としても運動機会が減っている傾向にあります。
体育教員として、また、サッカー指導者として見てきたなかで感じることは、例えば学生時代には体育の授業で様々な競技に触れる機会があるわけですが、そこで出会った競技を社会に出たあとも触れる人は少ないと思います。それを考えた時、そもそも学校教育の中で彼らが「身体を動かすことは楽しい」という体験を得られているのだろうか?という疑問や、そこに改善すべき点があるかもしれないと感じました。アスリートへの道は全ての人に当てはまるわけではありません。であるならば彼らに必要なのは生涯スポーツの礎となる楽しさを感じてもらうことだと思い、授業やサッカー指導を行っています。
-スポーツとの最初の出会い方として、競技性だけではなく、楽しさをもっと感じてもらう機会が必要なのですね。今回の大会にある「基本的な約束」のなかに、監督・コーチは状況を見守り、穏やかな態度で、本来のコーチング(生徒の自主的・主体的な判断、決定力、実行力を高めるよう工夫した取り組み)に基づく行動を求めるとあります。実際の場面において、どのような指導を心掛けましたか?
例えば、北信越地区予選で「守備ができていないよね」という課題が挙がり、マークの付き方などを練習した時には、ひとつずつ動きを止めながら「君ならどうする?」と子供達の選択肢を聞いて進めました。もちろん適切ではない選択をする場合もありますが、それでも一度そのとおりにやらせてみる。すると、彼らは私に答えを求めてくるのですが「周りに聞いてごらん」とチームで考える機会を作るようにしました。しかし、部活動の1時間という限られた時間のなかですから、運動量の確保と考えさせる時間の両立にジレンマを感じましたが、やはり自主性を育てることは外せないですね。
-多様性のある社会についてお伺いします。これから彼らが社会に飛び立つにあたり、新社会人を受け入れる側に理解してほしいことをお聞かせください。
ギャップというのは生まれてしまうものだと思います。それを縮める努力を自分達もしなくてはいけません。そして受け入れる側の方々には、彼らのことを「知って欲しい」と伝えたいです。もちろんこちら側からの発信があってだと思いますが「こういう人もいるんだよ」ということを知って欲しいと思います。
-具体的に教えていただけますか?
「正しく知ってもらいたい」です。最近では発達障がいや自閉症、ADHDなどがテレビやYouTubeなどを通して広く知られるようになりました。ですが「なんとなく知っている」というのが一番怖いなと私は思います。例えばADHDの特性に忘れっぽさや衝動性があることをわかってもらいたいとは思いますが、実際には特性にグラデーションがあります。受け入れる人によっては、そのグラデーションを自分に当てはめて「私にもそういうところがあるよ」と捉えてくれる人もいますが、「なぜ急に?しかもこんな些細なことでこうなっちゃうの?自分ならあり得ない」と思ってしまう人もいます。全てを理解することはとても難しいことですが、なんとなく知っている理解だけでは当てはめられないことも多くあります。
-障がいの全ての理解は難しくても、誰もが感覚の繊細さを心の中に持ち合わせていること。そのセンサーの繊細度合いは人それぞれ違うことを社会全体に知ってもらいたいですね。社会に出ていく生徒達に向けて、学生時代に身に付けてもらいたい力は何だと考えていますか?
やはりコミュニケーションはどこにいっても必要です。身に付けるための学びを学校側としてもやっていきたいと思います。しかし、型にはまる必要はないと感じています。一昔前であればYouTuberが職業になることは考えられませんでしたが、時代は進んでいきます。彼らが、楽しいと感じられることを見つけて突き進んでいく力を付けて欲しいと思っています。そのためにも様々なことに興味を持てるような指導や、校外での活動、YouTubeなどを通じて新しい世界を知ることもコミュニケーションの一歩になるのかなと思っています。
-彼らの可能性は無限に広がっていますね。開会式で彼らの挨拶や立ち振る舞いを見た時に、全てが気持ちよくて素晴らしいと感じました。ということは私自身に「できないだろう」というバイアスが掛かっていたのだということにも気付きました。彼らができることを知らなかったためです。先程の知ってもらいたいという話にも通じますが、彼らの活躍や可能性をもっと知ってもらいたいですね。本日はありがとうございました。明日の大会も頑張ってください!
こちらこそ、ありがとうございました!
-監督(先生)、選手(生徒)インタビューを終えて(理事・ダイバーシティ担当 寺田美穂子)
フットサルの話に留まらず、現場の視点で様々なお話をしてくださりとても勉強になりました。また、誰にも個性や特性がありギャップは生まれてしまうけれども、それを互いに縮める努力が大事であり、完全に埋めることができない隙間は許容する社会であってほしいです。また、スポーツの楽しさについても最初の出会いは「安心」して楽しめることかもしれないと感じました。授業や成績という枠組みに捉われることなく安心して取り組むことができ、そこからステップアップ(ときにステップダウン)をしていける環境があればいいなと感じました。
大会取材/日本フットサル連盟 今井千秋