スポーツ庁・ガバナンスコード検討委員会において、大学カテゴリーの重点普及・組織課題プロジェクトメンバーの中心となっている、関西学生フットサルリーグ 理事・びわこ成蹊スポーツ大学フットサル部 顧問の吉倉 秀和氏に、自身とフットサルの関係やガバナンスコード検討委員会での取り組みについて、お伺いしました。今回は後編をお届け致します。(前編はこちら)
―ガバナンスコード検討委員会での取り組みについて、教えてください。
大学モデルとして関西地域が選ばれました。ほかの地域の皆さんとも情報交換をしていくなかで、関西地域がやっていることをほかの地域がすべてコピーすることは、関わる人やチーム数をみても現状は難しいと思いましたし、これは課題としてあります。ですので、関西地域としてはフルオープンに情報を展開し、他地域でできるもの、必要だと思うものを選び、有効活用していただいて大学カテゴリーの底上げにつながれば、という風に思っています。
また、ガバナンスコード検討委員会のなかではじめて知ったことは、19歳~22歳(大学層)がフットサルの登録数が一番多い、いわゆる”ホットゾーン”だということです。各地域、大学からフットサルを始めてもらう取り組みが非常に重要なことだと思いました。このあたりを全地域で認識しながら、大学層の競技者を増やしていくことは数年後社会人リーグの活性化にもつながるのではないか、という話はいろいろなところでしていきたいです。
2021年度 フットサル選手登録数 第1種 年齢別グラフ(2021年7月末時点)
―良い事例が多いなかでも、課題はありますか?
試合は、する人だけではなく、運営に協力する人も非常に重要です。関西学生リーグは、補助員などの運営に協力する人をメンバー外の選手で補っていることが多いのですが、他のリーグは試合するだけの人がいて、運営するだけの人がいるというイメージがあります。運営する人すべてをフットサルに関わっている人、つまりリーグ関係者だけで展開しようとするのは、フットサルという小さなコミュニティの中で解決しようとしすぎている気がします。もっと積極的に様々な人やスポーツとの交流機会を創造し、内向き文化が改善されると良いと思います。関西学生リーグにおいては資金力、人の違いはあるにせよ、規模が大きくないので大人だけで回せていますが、そういった関わる人を増やすことについては、課題になっています。フットサルファミリーというと大きくなってしまいますが、所属大学や年代と言ったあらゆる特性関係なく、大学フットサルの価値向上や大学年代がフットサルに打ち込める環境づくりをサポート出来るコミュニティが確立されることは大切だと思っています。
―新設された関西女子学生リーグについて、教えてください。
現状は4チームが所属していますがリーグ戦の開催は難しいので、1日で開催できる大会を何回かするようになると思います。今はまだ女子のフットサルサークルすらない学校が多いのが現状です。一番大変なのは、この立ち上げのタイミングで、昨年度は新型コロナウイルス感染症の影響により開催を断念せざるを得なかったので、今年度は再挑戦したいです。本学にも、個人で社会人リーグに出場している学生もいます。そういった学生が大学でフットサルができるようになるとチームができて、リーグ戦に参加してくれるようになって、コミュニティが大きくなっていけると思います。トップリーグのスポーツとして日本女子フットサルリーグがあるので、そこに導けるキッカケにもなれるといいです。
―サッカーとフットサルについて、教えてください。また、今後変えていきたいことはありますか?
まず、サッカー人口が多いことはフットサル界にとってある種の救いだと思います。週6回はサッカーをしているけど、週1回はフットサルをする程度の割合でもいいので、少しでもフットサルに触れてもらいたいですね。今の学生はSNSで調べてすぐにフットサルスキルを身に付けることができますし、これからサッカーとフットサルの二刀流をするチームが増えてくると面白いですよね。関東だと慶應義塾大学や城西大学、東京国際大学がありますけど、関西ではまだ少ないので…。
また、この年代のサッカーとフットサルは、目指すところに違いがあると思っています。大学フットサルの選手たちのほとんどは基本的にFリーガーを目指していません。大学サッカーのトップ層の選手たちはJリーガーを目指してサッカーをしています。練習量も大学フットサルでは多くて週4回です。大学サッカーでは多くて週7になることもありますよね。このあたりから見ても、競技スポーツに対する楽しみ方のスタンスにも違いがあることは理解できますし、私としても週6回の練習を推奨はしていないです。試合が入ればオフを取りますし、勉強などほかのことも大切なので…。加えて、大学フットサルの選手たちのほとんどが4年間で、競技スポーツとしては完全燃焼したいと思っています。社会人リーグを目指すこともなく、きっぱりやめていく選手も多く、これは課題です。ですが、この4年間に熱量をすべて込めていて、それが関西学生フットサルリーグの盛り上がりにつながっていることは実感しています。
今後変わるといいなと思うのは、多くのフットサルの大会で「○○大学フットサル部」と表記されていることです。サッカーの大会ではチーム名はだいたい「○○大学」とだけ表記されますよね。小さなことかもしれませんが、フットサルチームについても「○○大学」とだけ表記されること、こういった小さなことから変えていくこともフットサルが浸透する行動のひとつだと思います。(※関西学生フットサルリーグでは22年度から「フットサル部」の表記を原則撤廃予定)
それから、大学サッカーでは大学選抜とJリーグの下部組織が対戦する試合があったりします。フットサルだとこういった試合はないので、実現できるといいなとも思います。Fリーグと同じピッチで試合するのも経験させてあげたいです。
個人的には、フットサルはサッカーに比べて人数も少なく、ピッチも狭いです。失点すれば必ず誰かがそのキッカケになっているので、フットサルの方が責任感の大きさにも違いが出ると思っています。この責任感は、学生自身の心の成長にもつながっていると思うので、人生に活かしてくれると嬉しいです。
―学生たちの将来的なフットサルへの関わり方はどういった印象でしょうか?
声がかかってFリーガーになるケースもありますが、それは少数派ですね。現実問題、新卒社会人の就職内定状況が決して悪くないという側面もあるため、学生自身のキャリア選択としての優先順位は高くありません。
フットサルへの関わり方としては、エンジョイでもいいので続けてほしいとは思いますが、社会人リーグで続けるとなるとプレイング40分は体力的にもかなりしんどいようですね…。職種にもよりますが、週末に試合をすると月曜日の本業に響くという声も多いのでそういった面でもなかなか難しいようです。
やはり1DAY大会は一勝一敗の重みがそこまで無く、参加賞などをもらってゴール前で集合写真を撮って、食事をして帰るという「週末を楽しめるパッケージがあること」は強みですよね。私は、こういった意味ではフットサルの楽しみ方は、サッカーよりもゴルフに近しいなと思っています。ゴルフもまっすぐ飛べば褒め合って、変な方向に飛べば笑い合って、スポーツを通じてみんなで会話をする、笑い合えることが楽しいと思えるので、その点では共通していて、競技スポーツとは少し趣が異なっている気がします。勝敗を決めて優勝を目指すのももちろんいいですけど、優勝して賞金やユニフォーム一式もらえるという動機でフットサを続けるのもいいと思います。
―学生たちに伝えたいことはありますか?
とにかく真剣に楽しんでほしいです。大学フットサルの良いところは、年度が変わることで毎年チームの25%の人員が変わります。そういった意味で、人の循環がとてもいいので良し悪しの波も大きくなりますが、そのなかで組織をどうマネジメントしていくか、目標に向かって進んでいくのかという実践や経験がひとつの学習機会になります。
また、私は学生諸君に対して、大学卒業するときには「フットサルを好きなままでいてほしい」と必ず伝えています。フットサルとの距離感はいろいろあると思いますが、今年はどこが優勝したなどの情報が入ってくる状況や環境には常にいてほしいです。せっかくフットサルのコミュニティに入ってきてくれたので、そういえば昔フットサルやってたな…もうルールも忘れちゃったな…ではちょっと悲しいですね。
―最後に関西学生フットサルリーグのこれからについて、お聞かせください。
関西学生フットサルリーグに関わって7、8年が経ちますが関西地域だけでいうと、徐々に規模もコミュニティも大きくなってきています。学生たちにはまだまだ成長の可能性もポテンシャルもありますし、リーグを大きくするには学生のパワー無しでは推進できない部分があるので、学生中心のリーグというところはこれからも大事にしたいです。学生が余計な使命感を持たずにその時その時を楽しんでいけるような環境を作って、いろいろな人に関わってもらってリーグを充実させたいです。関わる人がもっともっと増えてくると嬉しいです。新型コロナウイルス感染症の影響はあるにせよ、対策を講じることで観る人を増やしていって大学フットサルリーグを追いかけてくれる人などが出てきてくれるのも楽しみです。
取材/(一財)日本フットサル連盟 今井千秋
【プロフィール】
吉倉 秀和(よしくら ひでかず) 関西学生フットサルリーグ理事
びわこ成蹊スポーツ大学スポーツビジネスコース講師、フットサル部監督
スポーツ産業論、スポーツ経営戦略を主な研究領域として講義などを担当
1983年生まれ、大阪府出身
早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了
※本事業協力/アビームコンサルティング㈱
2022年5月2日(月)
スポーツ庁・ガバナンスコード検討委員会
委員長 原田 理人