2019年6月22日(土)、U20フットサル日本代表がAFC U-20フットサル選手権イラン2019で優勝を収めました。2017年大会では現在もFリーグの舞台で活躍する植松晃都選手や内田隼太選手、仁井貴仁選手を擁し、優勝を目指しながらもU20 フットサルイラク代表に0対1で敗れ、ベスト8で敗退。この2年の間に、Fリーグにはディビジョン2が生まれ、下部組織のチームは育成リーグを戦い、Fリーグ選抜が発足するなど、若手選手の育成、強化に力を注ぎました。今大会の優勝を受け、Fリーグと年代別代表の関わりや相互作用について、鈴木隆二U20フットサル日本代表監督にお話を伺いました。全3回で公開します。
リンク:第1回、第2回
―今大会では、イラン戦のあとに「ジャパン」コールが上がった、決勝のアフガニスタン戦で味方の声が聞こえないような環境だった、と伺いました。Fリーグとは異なる環境、雰囲気でプレーができた選手たちに、それぞれのチームに戻ってどのような活躍を期待しますか?
アジア選手権は日本を代表するという、それまで経験できなかったような異なったプレッシャーがあります。準決勝のイラン戦でも、熱狂的なイランサポーターがいて、自分たちの声が届かない状況は既にありました。ただ、殺気は感じませんでした。完全なアウェイだから、「ここに日本あり」というものを見せてやろう、という気持ちで試合に臨むことができました。そして、8対4で勝利という結果で終わることができた。僕たちは日本人の礼節というものを大切にしているので、試合が終わったあと、必ずすべてのサポーター、観客に礼をすることを心掛けていました。記者会見のときに、「あの礼はなんだ?」という質問も上がりましたが「対戦相手だけではなく会場に来てくれる人すべてにリスペクトという姿勢、礼節です」と答えていました。そういった日本の文化が若い選手たちのプレー、姿勢や礼節を通して伝わり、そこから日本コールが生まれたのではないか、と思っています。
決勝はまったく異なる雰囲気でした。僕は試合会場に入ったあとのルーティーンのひとつとして、先に試合をしているチームのプレーや観客の様子など雰囲気をキャッチするため3〜4分だけ他のコーチングスタッフと離れて一人で他国のサポーター席の近くに座ります。決勝前は警備員に誘導され関係者席に座りましたが、会場に入った時に、違和感を覚えました。イランとインドネシアの3位決定戦が行われていて、後半サポーターが帰り始めるような時間になっても続々と観客が入って来ていたからです。決勝には観客が減るどころかイランに在住しているアフガニスタンの人たちが自国の未来ある選手を応援しにたくさん足を運んだのです。警官隊も配備されていたため「これは準決勝のイラン戦とはまったく違う雰囲気になるな」と思っていました。ウォーミングアップ時に下地フィジカルコーチが選手に話しかける声もあまり届かない。隣にいる選手同士でさえ声が聞こえづらい。会場は熱気というより殺気を感じるまでになっていました。少し恐怖を覚えるような雰囲気で、そういった、これまでの試合とはまったく違った状況で決勝を戦いました。決勝戦前に「今日は味方同士の声はほとんど聞こえない。でも心配するな。心では繋がっている」「ただし常にお互いの目を見てプレーしろ。そうすればお互いが何をやりたいかが分かる」と伝えました。
僕が選手に言い続けていることがあります。優れた選手、強いチームというのは、状況に適応していける選手、チームである、ということです。たとえば相手サポーターの応援によって対戦相手のパワーが2割、3割増したとします。その時に動揺するのではなく、「耐え忍ぶ状況が少しだけ長くなっても、必ずカウンターのチャンスがくる」など、自分たちがどうするべきか大きな流れを読み取ること。非常にシンプルですが、状況に適応していくというアプローチを、僕は常にしてきました。選手は大会を通して、しっかりと適応していってくれたのではないかと思います。対戦相手やチームの戦術レベルが異なるFリーグの中で、強い選手、優れた選手に成長していくベースを、今大会を通してすべての選手が学んでくれたと思っています。
決勝戦でゴールを挙げた髙橋裕大選手
―今後の日本フットサル界を担う若手選手にメッセージをお願いします。
僕が僕自身に言い続けていることでもありますが、できる範囲のチャレンジではなく、自分にとって少しキャパシティがオーバーしているな、と感じる目的と目標設定を常に心がけてほしいと思います。実際それは不可能なことではありません。目的や目標としたときに自分がワクワクするものであり、少しキャパシティがオーバーしている。そういったものをU20でも大切にしてきました。これからのフットサル界を担う若い選手たち全員に、そういう思いを持ってほしい。これだけ世界、とりわけアジアの中でも優れたFリーグという国内リーグを持っている日本において、それぞれの目的と目標を持って、ピッチを縦横無尽に駆け回ってほしいと思います。
【プロフィール】
鈴木隆二/スズキ リュウジ
1979年5月7日生まれ 東京都出身
小学校でサッカーを始め、大学卒業後フットサルへ転向。2005年、フットサル日本代表に選出。日本、スペインでプロ選手としてプレー。スペインサッカー協会フットサル指導者資格トップレベル3取得。2014年以降、スペイン2部Bリーグ監督、育成年代監督、U12・U14カタルーニャ州選抜コーチ。2016年U19フットサル日本代表監督就任、フットサル日本代表監督(暫定)も務めた。